WALKER'S 東北復幸のいま 歩くことで伝えられるコト

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【第6回】相馬市・郷土蔵 〜相馬の文化を足元で支える①

〜相馬の仕法〜

 
相馬といえば、ひとつ、思い浮かんだことがある。
二宮尊徳の「相馬の仕法」のことだ。
私ごとではあるが、以前、発展途上国に対する国際協力の仕事をしていて、相手国の自立を目的とする日本の政府開発援助(ODA)の趣旨に沿った、日本的な開発手法がないものかと調べていたところ、この二宮尊徳の「仕法」に行き着いた。
民衆の参加型の実践と、それを促す藩政の役割と施策は、事実、途上国の農村開発にも適用しうるものだった。
この尊徳の藩の経営改革と農村開発手法は、「仕法」という名で体系化され、江戸時代末期、民衆の貧困や飢饉、そして財政難にあえぐ多くの藩で採用されたが、中でも最も成功した地域と言われるのがこの相馬だった。
相馬市のホームページでもこの「仕法」のことが紹介されていて、この尊徳の教えが、相馬の人々の価値観や生活に深く根ざしていることが理解できる。

相馬観光ガイドより
 
僕がこの「仕法」に注目したのは、体系化された実践的な内容もさることながら、そのエッセンスの伝え方が、民衆にとってわかりやすく、彼らの参加を促すのに非常に有効であると思われたからだ。
例えば、
「まず一歩よりはじめよ。小よりはじめよ。雫も集まれば水車をかけることができるように、大事をなそうとする者は、小事よりつとめるとよい」であるとか、
「草が少なくて楽なところから畑の手入れをはじめ、草の多い困難なところは後回しにせよ。草の多い手重いところを先にして、それに手間取っているうちに、草の少ない畑も一面に草になって両方ともに手遅れになる。国家を興復するのもこの理で、悪を矯めるよりは善を賞する方が、どれほど効果があるかわからない。衰えた村を興すにも、まず篤実精励の良民を挙げ、大いにこれを表彰して一村の模範とし、他を化するようにせよ。」など。
実に具体的で光景が思い浮かぶようだ。
何らかのアクションを始めるには、心からの納得が必要なのだ。
 
 

〜民具の展示館、相馬市郷土蔵〜

 

相馬市の歴史資料収蔵館に行けば、この尊徳の「相馬仕法」についてのわかりやすい展示が見られるとのことだったので、ぶらりと歩いて行ってみた。
ところが、残念なことに、この歴史資料収蔵館は、令和3213日に福島県沖で発生した震度6強の地震の影響で、閉館していた。
楽しみにしていたのだが、、、と、ふと見ると、隣にある郷土館の方は開館している。 磁力に引き寄せられるように、まさに蔵のような建物の中に入っていった。
これが大正解!素敵な出会いがあった。




(参照:相馬観光ガイド、相馬市歴史資料収蔵館・郷土蔵)
https://soma-kanko.jp/trip/rekisisyuzyoukan/

 
「こんにちは〜」と、中に入っていくと、「はい、いらっしゃいませ。ようこそ。」と、明るい声がして、年配の女性が事務室から現れた。
「どちらからいらっしゃったの?」
「東京からです。」
「あら、私も東京にいたことあるのよ。まあまあ、遠いところからようこそ。何かお調べ物ですか?」
「いや、ちょっと二宮尊徳の仕法のことを調べたいなと思って。」
「まあ、そうですか。よくここに研究されてる方がいらっしゃるんだけど、今日お見えになればいいんですけどねぇ。」
 
まだ入り口に立ったばかりなのに、何やかやと気遣いしてくれて、その「ウェルカム感」が嬉しい。
先方は、明らかにふらりとやってきた僕に興味があるようで、一体どういうわけでこの相馬に来たのか、こちらの方が質問され始めた。
 
「ええ、ちょうどウォーキングのイベントがあったものですから、それに参加しているんですよ。」
「ああ、今日大勢歩いていましたね。まあまあ、よく歩くんですか?」
「まあ、歩きますね。歩くの好きなんですよ。ぶらりと。明日は、相馬から二本松に向けて相馬街道を歩こうかと思って。」
「え!?二本松まで?ずっと歩きで?えー?」
 
その様子が気になったのか、もう一人年配の女性が事務室から出て会話に加わった。
お二人の女性のやりとりを見ていると、ご近所の井戸端会議に参加しているようで、気持ちがほぐれた。
お二人は、横山理恵さん(66歳)、前田勝子さん(72歳)。



ひとしきり世間話をして、展示物を拝見させてもらった。
 
「本当に残念ねぇ。収蔵館が開いていれば、素晴らしい展示が見られたのに。こっちは民具しかないんですよ。」
 
謙遜しているが、この民具のコレクションが相当なものだった。
この郷土蔵には、昭和初期から40年代に使用されていた生産用具や生活用具を収集して、状態の良い形で保存されていた。
民具を順番に眺めていくだけで、この相馬地方の農村や漁村の暮らしぶりが手に取るようにイメージできる。
そればかりでなく、複雑で無機質な電気製品に満ち溢れた都会からやってくると、これらの素朴で使い勝手の良さそうな民具が、あたかも芸術作品のように見えてくるから不思議だ。

  




「ねえ、これも見てちょうだい。私たちが作ったのよ。」
 
何だろうと思ったら、わらじだった。
 
「いやぁ、上手に作るものですねぇ。編み目もしっかりしているじゃないですか。」
「ええ。こうなるまでにずいぶん特訓したのよ。」
 
このわらじには、素敵なエピソードが隠れていた。



      筆:渡辺マサヲ